障害者の旅の足 ひまわり号30年 減存続望む声 切実
2015/06/15
障害者と家族らが貸し切り、周囲に気兼ねなく利用できる臨時列車「ひまわり号」が、各地で運行している。1980年代に東京で始まって全国に広がり、最近は運営を担う人材難などから運行本数はピーク時より半減したが、存続を望む声は根強い。30周年を迎えた東京都国分寺市の実行委員会主催の列車に同乗した。 (竹島勇)
「諏訪湖は初めて。紅葉が美しい」。車いすの服部実さん(78)が笑顔を見せた。三日午前七時半、東京・JR国分寺駅から長野・上諏訪駅に向けて出発したひまわり号。諏訪湖への日帰り旅行に、車いすの五人を含む六十五人の障害者と家族、ボランティアら計百八十三人が参加した。
服部さんは九年前、頸椎(けいつい)を痛めて下半身が不自由になった。妻の文江さん(72)と一緒に楽しむ、ひまわり号の旅は四回目。「ボランティアが助けてくれて、不安がない。ひまわり号でないと、私たちは旅行ができない」と口をそろえる。
車内ではゲームやギター伴奏の歌で盛り上がった。諏訪湖では湖畔で弁当を食べ、遊覧船や足湯などを楽しんだ。知的障害の八歳の息子を連れた母親(37)は「周囲からじろじろ見られ『おかしな子』と言われることもあった。周りの目を気にせず外出したかった」と話す。今回の会費は、往復運賃や保険料を含めて大人四千円、高校生以下二千円と比較的安く抑えた。JR運賃は団体割引などがあるほか、主催した国分寺市民らでつくる実行委が集めたカンパもある。ただ、実行委の収支は七万円程度の赤字になる見込みだ。
全国連絡会によると、全国初のひまわり号は一九八二年。九八年には延べ七十二本が走ったが、運営スタッフやボランティア不足などから実行委が減少。今も実施するのは全国で三十五団体程度とみられ、都内で今年の実施が確認できたのは三本だった。
近年はバリアフリーの広がりなどで、車いすの若者の参加が減った。しかし、「高齢になってから車いすを利用した方、知的障害のある方の参加が目立つようになっている」(実行委)。一方で運営側の人材難が深刻で、関係者は「スタッフを引き継ぐ若手や、旅費を自己負担するボランティアを見つけるのが難しくなった」と明かす。
ボランティアに家族、学校に施設…。大勢の協力があって続く善意の列車。国分寺実行委の春口明朗(あきお)委員長(71)は「運営は大変でボランティア集めに苦労するけど、みんなの笑顔を見ると続けようと思う」。
◆継続する工夫を
障害者の旅行を研究テーマにするノースアジア大学(秋田市)法学部の井上寛准教授(社会学)の話 ボランティアに国鉄が協力した「ひまわり号」運動は障害者に旅行を体験させることに大きな貢献があり、その後のバリアフリー拡大にも大きな影響を与えた。バリアフリーが進んだとの認識から一般の関心は薄れているようだが、今もひまわり号を必要とする障害者はいる。地域で継続させるための工夫が求められる。
<「ひまわり号」> 初の列車は1982年11月3日、国鉄(当時)上野-日光駅間を障害者160人らを乗せて走った。階段やトイレなどの問題から、障害者にとって鉄道旅行は困難だったが、東京都北区の北病院職員と国鉄職員らが協力して実現。翌年は9本が走るなど全国に拡大した。国鉄は83年に「公共交通ターミナルにおける身障者用施設ガイドライン」を定め、バリアフリー化を進展。JR東日本では現在、いわゆるバリアフリー法に基づいて、エレベーターなどを2020年度までに1日の乗降客が5000人以上の駅に整備し、3000~5000人の駅でも国などの支援を前提に整備を進めている。
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